30歳の春、私は「インターン生」になりました。
それまで約7年、営業として働いてきました。飛び込み営業から始まり、大手IT企業では代理店営業のチームリーダーも経験しました。名刺の肩書きも、それなりに説明しやすいものでした。
その全部をいったん置いて、フィリピンのセブ島にある会社に、インターンとして入ったのです。
親には心配され、友人には「なんで辞めるの?」と聞かれました。正直、自分でも「30歳でインターンって、履歴書的にどうなんだろう」と思わなかったわけではありません。
それでも今振り返ると、あのときの選択は間違っていなかったと思っています。この記事では、30代でキャリアチェンジを考えている人に向けて、私がインターンからやり直した理由と、実際にやってみて感じたこと、そして「捨てたもの」と「持っていったもの」をお話しします。
30代のキャリアチェンジが怖いのは「積み上げを捨てる」感覚があるから
30代でキャリアを変えようとすると、どうしても頭をよぎるのが「今までの積み上げがもったいない」という気持ちです。
20代で積み上げてきた経験、役職、収入、社内での信頼。キャリアチェンジは、それらを一度リセットするように感じられます。年齢を重ねるほど、失うものが多いように見えるので、一歩目が重くなるのは当然です。
ただ、実際にやってみてわかったのは、キャリアチェンジは全部を捨てることではないということです。手放すものもあれば、次の場所にちゃんと持っていけるものもあります。その仕分けができると、怖さはかなり小さくなります。
リーダー職からインターンへ。私が再スタートを選んだ理由

29歳まで、私は日本で営業として働いていました。30歳のとき、セブ島にある今の会社に、インターンとして入社します。
理由は一つで、自分の成長のために、英語とマーケティングを本気でやりたかったからです。
ここで「なぜ正社員ではなくインターンなのか」と思う人もいるでしょう。実は、インターンはあえて選んだ形でした。
当時の会社のインターン契約では、1日のうち4時間を英語の学習に、残りの4時間をマーケティングの仕事にあてることができました。正社員として入ると、1日8時間は仕事になります。英語とマーケティングの両方の時間をしっかり確保できるのは、インターンの方だったのです。
お金よりも、成長できる時間を取りにいく。1年ほどで英語とマーケティングを身につけて、次のステップに進む。それが、30歳の私が立てた計画でした。
今思えば、30歳で「時給より時間」を選べたのは、若さではなく、むしろそれまでの7年があったからだと思います。働くことの大変さも、何が自分に足りないかも、ある程度わかっていたからこそ、迷わず時間を取りにいけました。
実際にやり直してみて、きつかったこと
知識ゼロは、意外ときつくなかった
キャリアチェンジでよく心配されるのが、「知識ゼロから始めるのはきつい」という点です。私もマーケティングは完全な未経験でした。
ところが、これは思ったほどきつくありませんでした。むしろ、毎日知らないことを覚えて、それが少しずつ仕事に活かせるようになるのは、純粋に楽しかったです。営業のころには味わえなかった、「できることが増えていく」感覚がありました。
収入も、目的がはっきりしていたので、大きな悩みにはなりませんでした。
違和感があったのは「年下の先輩」との関係
一番違和感を覚えたのは、職場の人間関係でした。
周りには、自分より年下で、入社時期が早い先輩がたくさんいました。それ自体はまったく問題ありません。ただ、中には、実績やスキルがあるわけではないのに、「先に入った」というだけで、少し偉そうな態度をとる人もいました。
インターンと社員という立場の違いもあって、なんとなく下に見られている感じがする。きついというより、正直「うーん」と思う場面が何度もありました。7年分の社会人経験は、インターンという肩書きの前では、思った以上に見えなくなるものです。30歳にして、久しぶりに「新人の気持ち」を全力で思い出させてもらいました。
ただ、ここで腐らなかったのは、自分の目的がはっきりしていたからです。私がここに来たのは、英語とマーケティングを身につけるため。誰にどう見られるかは、目的の外にある話でした。
30代でキャリアチェンジをすると、多かれ少なかれ、こうした場面には出会うと思います。前の職場で積み上げた立場は、新しい場所では通用しません。そこで「前の会社では」と言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、目の前の仕事で信頼を取り戻していく。遠回りに見えて、それが一番の近道でした。
それでも、営業時代の経験が役に立った場面

インターンになって、肩書きはリセットされました。でも、営業時代に身につけたものは、ちゃんと次の場所に持っていけました。
やりきる力
一番役に立ったのは、成果が出なくても、めげずにやり続ける力です。
飛び込み営業やテレアポでは、1日に何百件も声をかけ、ほとんど断られる毎日でした。結果が出なくても、次の1件に向かう。その経験は、マーケティングでうまくいかない施策が続いたときにも、そのまま支えになりました。広告の反応が悪くても、記事が読まれなくても、「まあ、テレアポに比べたら」と思えるのは、ある意味で営業時代のおかげです。
相手の立場に立つ力
もう一つは、相手の立場に立って考える力です。
営業では、お客さんが何に困っていて、何を言われたら動くのかを考えながら話します。マーケティングで大事な「ユーザー視点」も、実は同じことでした。画面の向こうにいる人が、どんな気持ちでこのページを見ているのか。営業で鍛えた想像力が、そのまま活きました。
営業とマーケティングは、別の仕事に見えて、根っこはとても似ています。キャリアチェンジで「今までの経験は役に立たない」と感じている人も、一度、自分の経験を分解してみてください。持っていけるものは、意外と多いはずです。
分解のコツは、「何をしてきたか」ではなく「そのとき何ができるようになったか」で書き出すことです。たとえば「テレアポを毎日していた」ではなく、「断られても気持ちを切り替えて次に行ける」「短い時間で相手の関心をつかめる」と書きます。職種の名前で考えると別物に見える仕事も、身についた力で並べると、次の仕事とつながる部分が見えてきます。
周りの反応は「心配」が多かった
キャリアチェンジを決めたときの周りの反応は、正直に言うと、微妙でした。
当時の私は、いわゆるメガベンチャーと呼ばれる大手のIT企業で働いていました。そこを辞めて、海外の会社にインターンとして行く。周りから見れば、不思議に思われるのも無理はありません。
特に心配していたのは、親でした。「本当に大丈夫なのか」と、何度も聞かれました。友人の反応は分かれていて、海外志向の強い友人は「めちゃくちゃ面白いじゃん」と背中を押してくれました。一方で、そうでない友人からは「なんで辞めちゃうの?」「大丈夫なの?」と心配の声が多く届きました。
でも、それは当然の反応だと思います。周りの人は、あなたが今いる場所しか見えていません。あなたが何を目指しているのかは、あなたにしか見えていないのです。だからこそ、周りの反応で迷ったときは、「自分は何のために変わりたいのか」に立ち返るのが一番です。
30代でキャリアチェンジする前に、考えておくべきこと
30代のキャリアチェンジで大事なのは、勢いだけで決めないことです。私の経験から、事前に考えておいてほしいことを2つの例で紹介します。実在の人物ではなく、よくある流れをまとめたものです。
ケーススタディ:条件だけで決めたAさん
Aさんは、今の仕事に行き詰まりを感じて、「とにかく環境を変えたい」と転職を決めました。選んだ基準は、年収と勤務地、そして「なんとなく成長できそう」という印象です。
ところが入社してみると、思っていた仕事とは違いました。何を身につけたくて転職したのかがはっきりしていなかったため、日々の業務に意味を見出せず、また次の転職を考えるようになってしまいました。
ケーススタディ:捨てるもの・持っていくものを整理したBさん
Bさんも、30代でキャリアチェンジを考えていました。ただBさんは、決める前に紙に2つのリストを書きました。「手放してもいいもの」と「次の場所に持っていきたいもの」です。
手放していいものは、今の役職と、一時的な収入。持っていきたいものは、顧客と話す力と、粘り強さ。そして、新しく身につけたいスキルを一つに絞りました。この整理をしたうえで職場を選んだBさんは、最初の数か月の大変さも「計画どおり」と受け止め、着実にスキルを伸ばしていきました。
2人の違いは、勇気の大きさではありません。変わる前に、自分の荷物を整理したかどうかです。
30代のキャリアチェンジで、よくある3つの不安
キャリアチェンジの相談を受けると、よく出てくる不安があります。私なりの考えをまとめておきます。
「30代からでは遅いのでは?」
遅いかどうかは、年齢ではなく、何をどこまで目指すかで決まると思っています。20代と同じやり方で同じ土俵に立つなら、たしかに不利な面もあります。でも30代には、20代にはない社会人経験があります。その経験と新しいスキルを掛け合わせれば、20代とは違う強みになります。私の場合は、営業の経験とマーケティングの掛け算でした。
「年収が下がるのが怖い」
これは現実的な不安です。だからこそ、どのくらいの期間なら収入が下がっても生活できるのか、先に計算しておくことをおすすめします。私がインターンを選べたのも、「1年ほど」と期間を区切っていたからです。期限と目的が決まっていれば、一時的な収入の減少は「投資」として考えられるようになります。
「家族や周りに反対されそう」
反対されるのは、多くの場合、相手があなたのことを心配しているからです。私も親にはかなり心配されました。大事なのは、説得しようとすることより、「何のために」「どのくらいの期間で」「うまくいかなかったらどうするか」を自分の言葉で説明できるようにしておくことです。そこまで考えている姿を見せれば、完全には賛成されなくても、見守ってもらえることは多いと思います。
30代のキャリアチェンジは、行動量で勝負するしかない

最後に、30代でキャリアチェンジを迷っている人に、一番伝えたいことがあります。
行動しないと、結局何も始まりません。
私自身、セブ島に行ってからは、多い日には1日8時間ほど英語に向き合っていました。マーケティングも、業務だけで終わらせず、自分でブログを立ち上げて記事を書き、マーケティングの本は20冊ほど読みました。
30代からのキャリアチェンジは、20代の人と同じスタートラインに立つことでもあります。吸収の速さや時間の余裕で負けるなら、行動の量で勝つしかない。私はそう考えていました。
迷っている間にも、時間だけは過ぎていきます。今はAIもあるので、わからないことを調べながら、考えながら進むこともできます。完璧な準備ができるのを待つより、今日できることから動き始める方が、ずっと早く景色が変わります。
キャリアの全体の流れは「未経験から、飛び込み営業→代理店営業→海外でWebマーケターになるまで」、セブ島での立ち上げの話は「未経験でフィリピンに渡って、マーケティング事業を一人で立ち上げた話」、転職の準備については「未経験からマーケターに転職できるのか」でも詳しく書いています。
まとめ:今日やること
30代のキャリアチェンジは、積み上げを全部捨てることではありません。手放すものを決めて、持っていくものを選び直すことです。
今日から、次のことをやってみてください。
- 紙に「手放してもいいもの」と「持っていきたいもの」を書き出す
- 次の場所で身につけたいスキルを、一つだけ決める
- そのスキルのために、毎日確保できる時間を決める
- 周りに相談する前に、「自分は何のために変わりたいのか」を一文で書く
- 今週中に、そのスキルにつながる行動を一つだけ始める(本を1冊買う、無料講座を1つ受けるなど)
30歳でインターンになった私でも、なんとかなりました。迷っている時間を、行動の時間に変えてみてください。

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