「せっかく大手にいるのに、辞めるのはもったいないよ」
大手企業を辞めようか迷っていると、周りからこう言われることが多いと思います。自分でも「本当にこの安定を手放していいのか」と、何度も考えてしまうのではないでしょうか。
私は20代の後半、大手IT企業で働いていました。チームリーダーを任され、辞める直前にはマネージャー職のオファーももらっていました。それでも私は会社を辞め、海外のベンチャー企業にインターンとして入りました。
今はそのベンチャー企業で、マーケティングとセールスの責任者をしています。採用をする側として、大手出身の応募者と面接をすることもあります。
この記事では、大手を辞めるかどうか迷っている人に向けて、私が辞めると決めた理由、実際に失ったものと得たもの、そして「残った方がいい人」と「辞めてもいい人」の違いを、正直にお話しします。
「大手を辞めるのはもったいない」と言われる理由
まず、なぜ「もったいない」と言われるのかを整理しておきましょう。大手企業には、実際にたくさんの魅力があります。
- 収入と安定:給与水準が比較的高く、景気の影響を受けにくい
- 福利厚生:住宅手当、ランチの補助、独自の休暇制度など、制度が手厚い
- 教育・研修制度:入社後の研修や、学び直しの支援が整っている
- 社会的な信用:会社名だけで信頼してもらえる場面が多い。ローンの審査などで有利になることもある
- キャリアの選択肢:社内異動で、別の職種や部署を経験できる
- 退職金や企業年金:長く勤めるほど、将来の備えが厚くなる
こうして並べると、たしかに「もったいない」と言われるのもわかります。私自身も、辞めるときにはこのほとんどについて悩みました。
私がマネージャー職のオファーを断って、大手を辞めた理由

正直、めちゃくちゃ迷った
マネージャー職のオファーをもらったとき、収入も上がると言われました。肩書きも、安定も、周りからの見え方も、条件としてはすべて魅力的でした。
何より、大手企業でマネージャーとして管理職を経験できることは、なかなか得られない貴重な経験です。私にとっては、憧れていたポジションの一つでもありました。だからこそ、本当に悩みました。
「3年後の自分」を想像して決めた
最終的に決め手になったのは、マネージャーになって3年後、4年後の自分を想像したことです。
管理職として経験を積む未来も、素敵だなと思いました。ただ、それは今の業務の延長線上にある仕事です。管理職としての経験は積めても、「個人として成長している」という感覚は、当時の私にはあまり持てませんでした。
それよりも、英語やマーケティングといった、どこに行っても通用する個人のスキルを身につけた方が、自分の市場価値は上がるのではないか。そう考えたのです。
実は当時、もう一つ気づいていたことがありました。会社の看板を外したとき、自分には持ち運べるスキルがほとんどない、ということです。大手の名前があるから話を聞いてもらえていた場面も、正直たくさんありました。その看板がなくても戦える力をつけたい。この気持ちが、最後に背中を押しました。
この先の話は、「30歳でインターンからやり直した話」で詳しく書いています。
大手を辞めて、失ったものと得たもの
失ったもの:当たり前だと思っていた制度と環境
辞めてみて一番大きく変わったと感じたのは、福利厚生や働く環境です。
有給休暇の制度、ランチの補助、パソコンの支給、会社独自の休暇制度。大手にいたころは、こうしたものを当たり前だと思っていました。でも、ベンチャーに移ってみると、それは決して当たり前ではなかったのです。「大手の制度って、こんなにしっかりしていたんだ」と、辞めてから気づきました。失って初めて気づくありがたみ、というやつです。
これから大手を辞めようとしている人は、今の会社でどんな制度に支えられているのかを、一度書き出してみてください。普段は意識していない制度ほど、なくなったときの影響は大きいものです。書き出したうえで「それでも辞めたい」と思えるなら、その気持ちは本物だと思います。
得たもの:大手とベンチャー、両方を知る視点
一方で、得たものもたくさんあります。
日本の企業の大半は、中小企業です。中小企業庁のデータでは、企業数のおよそ99.7%が中小企業だとされています。大手企業にいると、この「大多数の会社」で働く感覚を知る機会はあまりありません。
ベンチャーに移ったことで、私は大手の良さと悪さ、ベンチャーの良さと悪さを、両方とも肌で感じることができました。このギャップから得た学びは、本当に大きかったです。
もう一つ大きかったのは、仕事の幅です。ベンチャーに入ってすぐ、新しい事業の立ち上げを任され、規約づくり、営業資料、LPの制作、広告運用、SNS、SEOまで、ほぼ一人で担当することになりました。大手にいたら、それぞれ別の部署や専門の担当者が受け持つ仕事です。大変でしたが、この経験がそのまま、今のマーケティングの土台になっています。
後悔した瞬間は、ない
辞めたことを後悔した瞬間は、今のところありません。
それは、毎日が充実していて、個人として成長していると感じることが多いからだと思います。もし「戻ってきて」と言われたら、それはそれで全然ありだとも思っています。でも、「後悔」とは違うのです。
大手企業は、事業の規模がとても大きいぶん、一つの事業部の一担当として働くことになります。ある意味、大きな機械の歯車の一つです。一方でベンチャーでは、一人ひとりに大きな役割と責任が任されます。その分大変なこともありますが、自分の仕事が会社の成長に直結している感覚は、何よりのやりがいになっています。
両方で働いてわかった、大手とベンチャーの違い

大手とベンチャーの両方を経験して感じた違いを、表にまとめてみます。
| 大手企業 | ベンチャー企業 | |
|---|---|---|
| 役割の範囲 | 担当がはっきり分かれている | 一人で幅広い業務を担う |
| 任される責任 | 事業部の一担当として関わる | 若いうちから大きな責任を任される |
| 制度・福利厚生 | 手厚く整っている | 整っていないことも多い |
| 仕事の進め方 | 決まったオペレーションに沿って進める | やり方を自分たちで作っていく |
| 成長の実感 | 専門性を深く積み上げやすい | できることの幅が一気に広がる |
どちらが良い・悪いではありません。大手は、仕組みの中で専門性を深めていくのに向いています。ベンチャーは、仕組みそのものを作りながら、できることを広げていくのに向いています。
大事なのは、今の自分がどちらの成長を求めているかです。私の場合は、英語とマーケティングという新しい領域で、できることを一気に広げたかった。だからベンチャーを選びました。もし一つの分野を深く極めたいと考えていたら、大手に残る選択をしていたかもしれません。
採用する側から見た「大手出身者」
今は採用をする側として、大手出身の方の面接をすることもあります。
強み:整ったオペレーションを知っている
大手出身の方の強みは、仕組みが整った会社のやり方を知っていることです。決まったオペレーションや業務の流れをしっかり理解しているので、ベンチャーに足りない部分に気づき、改善の提案をしてくれることが期待できます。これは、ベンチャーにとってとても価値のある経験です。
気になる点:働き方のギャップ
一方で気になるのは、働き方のギャップです。
大手企業では、勤怠管理がしっかりしていて、決まった時間の中で働くのが基本という会社も多いと思います。一方でベンチャーやスタートアップには、会社を成長させるために、全員が自分の役割を超えて動く場面がたくさんあります。
そこで「私の仕事はここまでです」「9時から18時が私の業務時間です」という考え方が強いと、ベンチャーでは少し苦労するかもしれません。もちろん、長時間働けばいいという話ではありません。ただ、自分の担当範囲だけでなく、会社全体の成長を自分ごととして考えられるかどうかは、面接でもよく見ています。面接で見ているポイントは、「面接で採用担当が見ているところ」で詳しく書いています。
大手を辞めてもいい人・残った方がいい人

辞めてもいい人
個人として成長したい、もっといろいろな経験をしたいと強く思っている人は、辞めることを前向きに考えていいと思います。ベンチャーには、若いうちから大きな役割を任され、幅広い経験を積めるチャンスがあります。
残った方がいい人
反対に、大手の制度や働き方に満足している人や、福利厚生や安定した働き方を失うのが怖いと感じる人は、無理に辞める必要はないと思います。特に、IT系のベンチャーやスタートアップは、制度が整っていないことも多く、合わないと感じる可能性が高いです。
大手にいながら、社内異動や副業で新しい経験を積むという選択肢もあります。辞めることだけが成長の道ではありません。大手の安定した環境があるからこそ、腰を据えて挑戦できることもあります。
ケーススタディ:勢いで辞めて後悔したAさん
ここで、よくあるパターンを2つ紹介します。実在の人物ではなく、大手からの転職で起きやすい流れをまとめたものです。
Aさんは、大手企業での仕事に物足りなさを感じ、「ベンチャーの方が成長できそう」という理由だけで転職しました。
ところが、入社してみると、今まで当たり前だった制度がないことや、決まった業務の範囲がないことに戸惑います。何を身につけたいのかがはっきりしていなかったため、目の前の忙しさに追われるだけの毎日になり、「前の会社の方がよかった」と感じるようになってしまいました。
ケーススタディ:看板なしの自分を確かめてから辞めたBさん
Bさんも、大手企業から転職するか迷っていました。Bさんはまず、「会社の名前がなくても、自分は何ができるのか」を書き出してみました。
すると、自分にはまだ持ち運べるスキルが少ないことに気づきます。そこでBさんは、「3年でこのスキルを身につける」という目標を決め、それが一番実現できそうな会社を選んで転職しました。制度の違いには最初こそ戸惑ったものの、目的がはっきりしていたので、前向きに乗り越えることができました。
2人の違いは、勇気の大きさではありません。辞める前に、何を手放して、何を得たいのかを整理したかどうかです。
辞める前に確認しておきたいこと
最後に、大手を辞める前に確認しておきたいことをまとめます。
- 3年後、5年後の自分:今の会社にいる場合と、辞めた場合、それぞれの姿を書き出して比べる
- 看板なしの自分:会社の名前を外したとき、自分に何ができるかを書き出す
- 手放す制度:福利厚生、退職金、休暇制度など、辞めると失うものを具体的に確認する
- 生活の余裕:収入が一時的に下がっても、数か月は暮らせる貯えがあるか
- 社内での選択肢:異動や新しいプロジェクトで、やりたいことが実現できないか
在職中にやっておくと、あとでラクになること
辞めると決めた場合も、すぐに辞表を出すのではなく、在職中にやっておくと後がラクになることがあります。
- 会社の制度を使い切る:研修や資格取得の支援、学び直しの補助など、使える制度は在職中に使っておく
- 副業や個人の活動で小さく試す:会社のルールの範囲で、次にやりたい仕事を小さく試しておく
- お金の準備をしておく:収入が下がる可能性に備えて、生活費の数か月分を貯めておく
- 引き継ぎを丁寧にする:お世話になった人との関係は、辞めたあとも思わぬところでつながります
大手を辞めることは、ゴールではなくスタートです。準備をしておくほど、新しい場所での最初の一歩が軽くなります。
転職先の探し方については、「転職エージェントの使い方」もあわせて読んでみてください。
まとめ:今日やること
大手企業を辞めるのは、たしかに「もったいない」面もあります。でも、それ以上に得たいものがはっきりしているなら、辞めることは決して間違いではありません。
今日から、次のことをやってみてください。
- 今の会社で3年後になっている自分を、一文で書く
- 今の会社を辞めた場合の3年後の自分を、一文で書く
- 会社の名前がなくても通用するスキルを、3つ書き出してみる
- 辞めたら失う制度や待遇を、すべてリストにする
- 1〜4を見比べて、「失うもの」と「得たいもの」のどちらが大きいかを考える
大事なのは、会社の大きさではなく、自分がどこで一番成長できるかです。その答えは、あなたにしか出せません。

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